2020年7月22日、2024年大学入試改革の目玉「主体性評価」のシステムを廃止することが萩生田文科大臣より発表されました。2021年度の共通テストにおける記述式と英語の民間試験の「見送り」に継ぐ、大きな入試制度の変更につながるかもしれません。あらためて「主体性評価」と医学部受験への影響を見ていきましょう。
そもそも「主体性評価」とは?
「主体性評価」に関しては、文部科学省が進めてきた「高大接続」の最も本質的な部分になるだけにウェッブサイトでも解説記事をアップしていました。
2021年度医学部入試変更点で特徴的なこと~主体性評価とは?
2021年度の共通テストへの移行や2022年度の高校の学習指導要綱の改定の「高大接続」「大社(大学社会)接続」最終の仕上げ的な位置づけにあったのが、「主体性評価」です。
日本ではバブル崩壊後「失われた30年」といわれている間に国際競争力や国際的なプレゼンスが低下しました。その対策の一つとして、小学校から大学までの教育と入試の改革を「串刺し的に」おこなうことが求められています。1点刻みの大学入試で合格した偏差値の高い大学の学生が、必ずしも企業にとって求める人材ではなかったという事情もありました。より社会で実践的に活躍する学生を、という経済界からの要請を受けての教育改革の一つが「主体性評価」でした。
急激な情報化や国際化において企業はさまざまな対応を迫られていますが、教育もそれに応じて変化していかなければいけないのかも知れません。協調することに判断基準を置くだけでなく主体的に物事に関わることが、企業でも求められています。
こうした社会の変化に基づいて文部科学省では「新しい学力観」を提示しました。
新しい学力の3要素は
①知識・技能の確実な習得
②(①を基にした)思考力、判断力、表現力
③主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度
であるとされています。
今回萩生田文科大臣が言及したのは、③にあたる「主体性評価」と言われるものです。
「主体性評価」の問題点は何だったのでしょうか?
予備校や塾でも「主体性評価」に関する相談がありました。
そのうち
「どんな活動が主体性評価で評価されるのか。」
「どんなボランティアが主体性評価で評価されるのか。」
「主体評価で評価されるには、英会話教室より海外留学した方がいいのか。」
といった質問もありました。
「主体性評価」で評価されるために、主体性のない選択を生徒や保護者が強いられるという屈折した内容が見られました。大学入試における偏差値がなくなるまでの過渡期の現象であるのかもしれませんが、「主体性評価」のために「主体性」を奪われる生徒、保護者が多くなることが予想されていました。
これは「主体性評価」の制度では当然の反応のようにも思われます。萩生田文科省が述べた廃止の理由としては以下の3点が示されました。
①主体性評価を大学に伝えるためのePortfolioを導入する大学が少なかった。
②個人情報漏洩の問題があったことから警戒感が特に保護者の間に強かった。
③ePortfolioの情報提供を担っていた教育情報管理機構が赤字だった。
今回は「主体性評価」自体は廃止しないとのことですが、今後の入試に際しての実効性に関しては疑問の残るところです。
2021年度医学部受験への影響は?
主体性評価に関しては、入試で義務づけられた「2年前告知」において医学部医学科の入試でも言及されていました。また2021年度の医学部の入試要項においては
獨協医科大学医学部医学科
慶應義塾大学医学部医学科
日本大学医学部医学科
東海大学医学部医学科
の4大学において「主体性評価」に関わる提出物が求められています。実際には2024年度からでいいのですが、早めに導入することで大学入学後に伸びた学生がどんな「主体性評価」だったかを見ることで知見を得ることが目的だと考えられます。
また提出物としては求めていなくても、ほとんどの医学部の入試要項で新しい学力の3要素を入学の際に求める学生像に反映させています。
一方で久留米大学医学部では現状の選抜で十分に主体性を計っているとして、2021年度は主体性評価に係る特段の変更はないとしています。
2024年度医学部受験はどうなる?
当初の入試改革では偏差値偏重の入試はあらためられる予定でしたが、医学部入試ではそれを先取りして面接や小論文を重視して医師としての適性を計る入試が実施されてきました。また入試問題自体も他学部に比べてタキソノミーのレベルが高くより思考力を問う問題が多く見られます。
医学部入試問題の参考にもなる「ブルーノのタキソノミー」について
しかしながら今後、ベネッセのclassiやリクルートのスタディサプリに登録する生徒が増えることも想像し難い状況です。それに代わる書式も示されず、ただ「主体性評価」だけを残すとの発言はにわかには信頼することができないというのが正直な反応ではないかと思われます。高校では現高校1年生は調査書に代わる記入はしていないという現状もあります。現中学3年生からではありますが、現高校1年生が浪人した際の代替案も示されていません。
「高大接続」に関して当初文科省が示した改革案はことごとく変更されています。このことによって多くの医学部と高校は多大な労力を払いながらも、その努力は水泡に帰しました。最も大きな影響を受けているのは医学部受験を予定している生徒や保護者です。今後入試に関して今までの入試改革に代わる施策が示されることになりますが、また振り回されるのではないかと思っている生徒、保護者が多くいることは否めません。
不確定なことが多くなっていますが、今後も入試に関する新しい情報をこのサイトでアップしていきます。